――私だけの貴方でいて欲しい

やわらかな声
あたたかい笑顔

貴方はいつも
お日さまの光に包まれている

――貴方の瞳に映りたい

そんな、かすかな祈りが

――私だけの貴方でいて欲しい

わがままな願いへと変わったのは

雨が止んで、また降り始める
そんなほんの僅かな間の出来事。

 

ー You’re the only ー

 

 

「未来、どうしたの? ご機嫌ななめだけど」

あからさまにブーたれた顔の彼女に、クラスメイトが遠慮がちに声をかけてくる。

「・・・別に。そんなことないわよ」

すまして、フンと横を向くけれど
今の未来はご機嫌ななめどころか
ご機嫌、直滑降。

だって、陵がヘラヘラ笑って
他の女の子とおしゃべりしてるんだもの。

わかってるわよ。

陵は優しいから
声をかけてくる女の子を
冷たく追い返すことなんか出来ない。
それだけ。

例え、その子に
陵への恋心があったとしても。

えーい、触るな!
私の陵に触るな!

そう口走りそうになるのを懸命にこらえて
未来は午後の授業の予習をしているフリをして
ノートのスミに黒々とした丸を書き続けた。

 

放課後。

「扇、貸して」
ブーたれた顔のまま、手を差し出したら
陵は軽く首を傾げつつも、緋扇の要を未来に向けた。

未来は扇を受け取ると、おもむろに上方に振り上げ、

「ていっ!!」

そして、振り下ろす。
自らの頭の上へ。

――カツーン!

小気味良い音を立てて、緋扇が未来の頭を弾いた。

「ええっ?!」

陵の悲鳴がこだまする。

大丈夫よ。
手加減してるから。
だって扇が粉々になったらマズイし。

「未来さんっ?! 何をしてるんですか?」

陵が慌てて緋扇を取り戻そうと手を伸ばす。
未来に何かが取り憑いたとでも思ったのだろうか。

ええ、そうですよ。
取り憑かれてるんですよ。
嫉妬の鬼ってヤツにね。

でも・・・

「ダメだわ」

全然スッキリしない。

扇の一番太い親骨で叩いたって
やっぱり軽くて華奢なんだもの。
まるで衝撃が足りない。

未来は緋扇を陵に返すと、ギラッと陵を睨み上げた。
その迫力に、陵がわずかに首をすくめる。

「祓って」
「え・・・何をですか?」
「私を! 決まってるでしょ」
「未来さんを? 何で?」
「いいから祓って! 今すぐ!」

陵は目をパチパチさせつつも
素直にこくりと頷いて
はらりと扇の面を開いた。

途端、辺りに広がる芳しい香り。

花の香り、木の香り。
どこか懐かしくほっとする気配に未来は瞼を下ろした。

少しして柔らかな声が空気を震わせる。

『君を思えば この胸に
たちまち桜 咲き満ちて
ふわりふわりと 舞いながら
伝えておくれ 我が恋を』

ふわりふわりと未来の髪を揺らすやわらかな扇の風。

同時に緋色の扇から舞い落ちる白色の欠片。
それは限りなく白に近い薄紅の花びら。

『君が微笑み 声あれば
この枝の桜 咲き満ちて
さらりさらりと 降り積もり
隠しておくれ 我が妻を』

続いて聞こえたのは
覚えのない歌。
え、こんな続きあったの?

戸惑う未来の前で、陵はゆっくりと首を傾けて笑った。

「僕の心は永遠に貴女だけのものですよ」

ドキリとする。
未来の幼く醜い嫉妬が見えたのだろうか。

「願はくは・・・」

そう言いかけて、言葉を切る陵。

「願はくは、何よ?」

陵は黙ったまま未来を見つめて、それからふわりと微笑んだ。

「願はくは、未来さんの心が
永遠に僕だけのものでありますように」

ああ、もう。それ、反則。
さっきまで胸のど真ん中に居座っていたはずの嫉妬の鬼が
どこかに吹き飛んでしまったみたい。

「来世も?」
「ええ」
「その次も?」
「はい」
「私が男で生まれて来ても?」
「その時は私は女でしょうか」
「私がおばあちゃんでも?」
「ええ。その時に私が赤ちゃんでも」
「・・・馬鹿」

笑顔が近づいてくる。
未来はそっと目を閉じた。

何度も何度も繰り返される軽いキス。
柔らかくて温かくて
氷砂糖みたいに甘くて
でも、海の水みたいにしょっぱい・・・

未来は首を横に振った。

「未来さん?」

数センチだけ離れた二人の間に
舞い落ちてくる薄紅の花びら。

「足りないよ」

泣きたい。

「足りないの。陵が足りない。もっと欲しい」

陵は困った顔をして笑った。

「それは僕もです」

直後、少し強めに唇を吸われる。

でも、まだまどろっこしい。
全部吸いつくされて
蕩けちゃって
一つになってしまえばいいのに。

そうしたらきっと
嫉妬なんかなくなる。

頭の上にかざされた緋扇から振り続ける白い花びら。
このまま降って降って降って降り積もって
二人をすっぽり隠してしまって。

時すら止めて
二人だけの世界に・・・

 

「だぁーっ!」

幼い無邪気な声と共に、白い花びらがわーっと散らされる。
そこから顔を出したのは、長女の美羽。

「あ、かくれんぼが見つかっちゃった」

少しだけバツの悪そうな顔をして
でもすぐに嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして
陵は美羽を抱き上げ、高く空にかざす。

未来はプゥと口をとがらせた。

「美羽ったら、すぐ邪魔しに来るんだから。
このいたずらっこ、一体誰に似たんだか」

と、陵が笑顔で振り返って何かを呟いた。
未来は、ベーと舌を出してやる。

 

神さま、私、幸せです。
でも、まだ足りないの。
もっともっと一緒にいたい。
ずっとずっと離れずに寄り添っていたい。
片時も手を放さずに。

そんな願い、叶えてくれますか?
私だけのものに、してくれますか?

未来永劫・・・

 

 

ー 終 ー

 

 

ひとこと

ご縁あって出会った少女漫画。
大好きな転生ものに、どんでん返しに
お祓いもの、白拍子、可愛い少年、強い女の子。
揺らがない主人公2人のloveに元気をもらいました。

陵くん、ドラマCDでは梶さんですかっ!
それは素敵〜(*^^*)
未来ちゃんは、のだめのリュカくんですか。フムフム・・・

 

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