あなたの口から

 

僕はあの人が嫌いです。
里のエリート忍者。

その人の名は

うずまきナルト。

 

- あなたの口から For Mani-sama… -

 

第四次忍界大戦から2年余り。
里には平和な空気が流れていた。

忍連合は形を変え、
今では各国の警ら隊として
他国との争い・抗争の為ではなく、
平和的治安の為の部隊としてその力を役立てている。

そして、医療忍者も・・・。

 

「サクラ先生!」
医療学校の休憩室。
生徒いく人かがテーブルにお弁当を広げていて
サクラ先輩は、手前に陣取った女子のテーブルに呼び止められていた。

「サクラ先生もお昼ですか?」
「うん、今日は少し時間あるから気分転換にね。
一緒していいかしら?」
もちろん!と笑顔の女子たち。
サクラ先輩は柔らかな笑顔を浮かべて腰掛ける。

珍しいな・・・。
サクラ先輩は、ほとんどお昼を取らない。

いつも忙しそうに書類を抱えて
火影室と病院、そして医療学校を往復している。
いつだったか、部屋を訪れた時は、
お昼をとうに過ぎた時間だったが
おにぎりを片手に調べ物をしていた。

「ねぇねぇ、サクラ先生!
先生って、あのナルトさんと同じチームだったんでしょう?
忍界大戦の時のお話とか、聞かせてください!!」
「いいわよ」
女子達の声が色めき立つ。

うずまきナルト、
この里でその名を知らない者はいないだろう。

里の英雄。
いや、里の、だけではない。
五大国の、そしてそれ以外の小国も含め
この世界を救った、その鍵となった人。

「ナルトさんって四代目火影様の子供だったって本当ですか?」
「うん、そうらしいわね」
「素敵!かっこいいですよね!」
「あ、じゃあ次期火影になるっていう噂は?」
「さあ・・・。
火影になるのが夢だとは昔から言っていたけれどね」

「うちはサスケさんも一緒のチームだったんですよね?」
「そうよ」
「ナルトさんとサスケさんって、金と黒でかっこいいですよね。
光と闇みたいですごく素敵!」
きゃー!と嬉しそうな歓声。
休憩室で、そこだけ異様な空間だ。

「先生、あのお二人と同じチームだなんて羨ましいです!」
「本当!いいなぁ」
羨望の眼差しの女子達の視線の先で
サクラ先輩はそっと視線を落とす。
「そうね。サスケ君と同じチームになった時は私も嬉しかったわ」

「サクラ先生、かっこいい二人に囲まれて、
どっちにしようかな?とか悩まなかったんですか?」
「うわー、贅沢な悩み!」
賑やかなツッコミに、あはは・・・とサクラ先輩は笑う。

「サスケ君はアカデミーの時から、とても人気があったわ。
背も高いし、大人っぽいし、すごくかっこよくてね。
でも、それだけじゃなくて、
頭もよくてクールだし、忍術も体術もクラスでトップだった。
あの、うちは一族の末裔で、エリートだと一目置かれていたし。

でも・・・小さい時にとても辛いことがあって・・・。
だから、口をきいてくれることは少なかったけれど
でも、本当はとても優しい人なの。
シャイで繊細で、見ていないようでちゃんと見ていてくれて。
気付くと私、いつも守られていたわ。

私は、ずっとサスケ君に片思いしていたの。
大好きで大好きで、
彼の為に髪の毛を伸ばしていたこともあるくらいにね」
肩口の所で、綺麗に揺れる桃色の髪を指で摘むサクラ先輩。

「えー!?先生がっ!?嘘っ!」
女子達が叫ぶ。
「あら、それどういう意味よ?」
サクラ先輩の眉がちょっと上がる。

「だって、サクラ先生ってクールっていうか
美人で落ち着いてるし、そういう事しなそうですもの」
ねー、と頷きあう女子達。
少し嬉しそうに、そして少し困ったようにサクラ先輩は小首を傾げる。

「ありがと。
でも、それ、同期の連中が聞いたら大笑いするわね」
「え?そうなんですか?」

「私は勉強ばかりの頭でっかちでね。
忍術も体術も中途半端で弱いくせに、
自分のことは棚上げで、ナルトのことを怒ってばっかり。
それに、深く考えないままに行動しては周りに迷惑をかけたわ。
同期のメンバーの言葉を借りるなら
『メンドくせー女』だったわね」

『メンドくせー』・・・シカマルさんの言葉か。
サクラ先輩の同期メンバーは粒ぞろいだった、
そう聞いている。
サクラ先輩の手伝いで火影室に向かうと
高い確率で出会う、黒髪の目つきの鋭い人。
いずれ、うずまきナルトの補佐に入るのだと噂されている人物。

「でも、いいなぁ、私もそんな素敵なメンバーと
一緒のチームになりたかったなぁ」
一人の女子が、夢見るように呟く。

「そうそう、三人一組の残り二人の内、どっちかでいいから
カッコイイ男子と組みたかったわよねー」
チームのメンバーが聞いたら、かなり激しく落ち込みそうなことを
サラリと言う女子達。

「サクラ先生ズルイですよ、
そんなカッコイイ二人と一緒のチームなんて!」
口を尖らせる一人の女子に、サクラ先輩は噴き出した。

「とんでもない!
ナルトなんてね、チビでガキで落ち着きがなくて、
威勢ばっかり良くて、てんで弱くって、術も肝心な時に失敗ばかり。

アカデミーの時は万年ドベって言われて
バカにされまくっていたわ。
卒業試験だって本当は落ちたのに、おまけ合格だったのよ。

頭も悪くって、イタズラばかりやっていて、
新技だっていうと、ヘンなエロ忍術。

ピンチの時に駆けつけた!と思ったら
味方の足を引っ張る始末だし。本当に心臓に悪いったら」

「えー!?」
女子達から悲鳴だか、歓声だかわからない声が上がる。

「カカシ先生は意外性No.1とか茶化していたけれど、
一体どれだけ私達が苦労したことか・・・!」
呆れたような口調。ポンポン出てくる悪口。

でも、気付く。
サクラ先輩の笑顔がいつもと違う。
楽しげで、優しげで、そして少し幼くて、周りの女子達と変わりないような・・・
思わず視線が釘付けになる。

「でも・・・ナルトにはいっぱいワガママ聞いてもらったわ。
よく、呆れられないなぁ、って思うくらい。
いや、呆れられてたかなぁ。

でも、それでも、ナルトは側にいてくれた。
私がピンチの時には必ず助けに来てくれた。
ホント数え切れないくらいたくさん殴り飛ばしたのに・・・。

ああ、あいつが頭悪いのは私のせいもあるかもね」
言いながら、ぐっと拳を握る。

サクラ先輩は五代目火影の愛弟子。
その怪力は周知の事実。
笑えない冗談に、女子達は皆、一様にシーンと静まって下を見る。

「そういうわけで、サスケ君とは比べようもないくらい劣ってたんだけれど
でも、ナルトは諦めなかったの。
バカみたいに『オレは火影になる!』って繰り返して、
サスケ君に追いつこうと追い越そうと頑張ってた。

サスケ君が里を抜けた時は死にそうなケガをしながら追って
その後もサスケ君を取り戻そうと必死で・・・
そして・・・」

そこで、一瞬言葉が詰まる。
大戦の時のことを考えているのだろうか。
うずまきナルトと、うちはサスケの戦い。

同じチームのメンバー同士の死闘。
サクラ先輩は一体どんな気持ちでそれを見ていたのだろう。

少しして、サクラ先輩は首を横に振った。
「ううん・・・だから、だからこそ今の彼があるのよ」

その時、女子の一人がサラリと口にした言葉に
サクラ先輩は動きを止めた。
「あの・・・。
ナルトさんって付き合ってる彼女とか、好きな人いないんですか?」

「バカッ!」
数人の女子が慌てて、発言した一人の口を塞ぐ。

でも少しして、その内の一人がおずおずと口を開いた。
「あの・・・。ナルトさんは、サクラ先生のことが好きだって
聞いたことあるんですけど・・・本当ですか?」

サクラ先輩は少し黙って前を見つめ
それから、視線を上げてまた微笑んだ。
「それは・・・幼い時の話よ。まだ下忍の頃の、ね」
その笑顔は、いつもの、どこか心を置いてきたような
少し寂しげな微笑に戻っていた。

「あら、もうこんな時間。
ほら、そろそろ教室に戻らなきゃでしょ」
サクラ先輩が腕の時計に目を落とす。
「あ、はい」
「午後の講義は、山中先生だったわよね。
彼女は優しいようで厳しいわよ。私より容赦ないからね」
ウィンクして立ち上がるサクラ先輩。
僕もトレーを手に立ち上がった。

 

「サクラ先輩」
部屋のドアに指をかけていたサクラ先輩に声をかける。

「あら、どうしたの?」
立ち止まってこちらを見るサクラ先輩。
吸い込まれそうになる、綺麗な緑色の瞳。

「すみません。さっきの休憩室の会話、聞こえてしまったんです。
僕も・・・少し伺ってもいいですか?」
「あら、やだ。聞かれてたのね。
ん、いいわよ、書類の整理を手伝ってくれたらね」

にっこりと微笑む顔。
いつもの穏やかな笑顔。
でも・・・彼女の本当の笑顔は違うことを、僕は知っている。

机の上の大量の資料を種類ごとに並び替えながら、僕は喋った。
「先の忍界大戦の時は、僕はまだ下忍で出して貰えませんでした。
里の警備をするだけで・・・早く強くなりたいと願ったものです」
「そうだったの・・・」
サクラ先輩は書棚から、どんどん机に書類を下ろしていく。

「やはり、ひどい戦いだったんですか?」
その時、その横顔にほんのわずか現れる”何か”。
「そうね・・・。二度とないように願うわ・・・」
その”何か”の意味を知りたい。
多分、うずまきナルトと、うちはサスケに関する”何か”。
でも・・・重い沈黙が流れ、僕は戦争の話はやめにした。

そして、話題を変える。
「うずまきナルトさんが落ちこぼれだったっていうのは本当ですか?」
「ええ、本当よ」
「でも、彼は里の英雄だ」
そうしたら、サクラ先輩は、ふふっと笑った。
「昔の彼からしたら嘘みたいね」

「でも、今も昔も根本は変わっていないのよ。
『真っ直ぐ自分の言葉は変えねぇ!それがオレの忍道だ!!』ってね。

情に厚くて、トラブルを引き寄せる天才だし
未だに信じられないようなバカ言ったりするし

・・・でも、強くなった。かっこよくなったわ」

「それは、彼がエリートだからでしょう?」

父親は四代目火影、母親はうずまき一族の九尾の人柱力。
そして、強大な力を持つ、九尾の妖狐をその体内に納める。
誰がどう見たって忍びの才能に溢れている。

それが、調子に乗って、里の英雄と呼ばれていい気になってるのだ・・・。

「違うわ。ナルトは努力したのよ。誰よりも!
私は側で見ていたもの。一番よく知ってるわ!」
眉が上がる。
サクラ先輩は、うずまきナルトの話になると、普段とは違う顔になる。
それに気付いてから苛々とする自分がいる。
でも・・・同時にその顔を見たくなるのだ。多分、彼女の本来の顔。

あの日、ペインを倒して里に帰ってきた うずまきナルトを迎えたサクラ先輩。
その時、自分はまだ彼女のことを知らなかったけれど
珍しい桃色の髪、綺麗な緑色の瞳に目を奪われた。

そして、今、やっと彼女の後輩としてここにいる。

「・・・サクラ先輩は、今もサスケさんのことが好きなんですか?」
「え?サスケ君?」
「今、暗部で活躍してるんでしょう?
たまに会われたりしないんですか?」
「そうね、たまに会うことはあるわ。
悔しいことに今でもかっこいいのよ。ううん、更にかっこよくなってる」

「でも、色々あったし・・・
何より・・・違うって自分の中でわかってしまったの」
「違う?」
そうよ、と頷く。少し持ち上がる口元。

「でも、ナルトは・・・今でもきっと
私はサスケ君が好きだって、そう思っているけれどね」
寂しそうな笑顔。
その笑顔が、男に対してどれ程の威力を発揮するのか、
あなたは知っているのだろうか?

「初恋は実らないものって本当だったわ。
それに・・・恋って、年を重ねると
幼い頃のように素直にはいかないものね」

『サクラ先輩は、ナルトさんが好きなんですか?』
そう聞きたい。
でも、聞いてしまったら、多分、僕は告白することが出来なくなる。
そう思う。
だから、僕はその言葉を呑み込んだ。

「そんな顔をしないでください・・・」
「え?」
「あなたはいつも何か心に秘めた顔をしている」
僕の言葉に、訝しげに真っ直ぐこちらを見つめる瞳。

「僕に何か出来ることはありませんか?
あなたの笑顔が・・・心から幸せそうな笑顔が見たいんです」

言おう。言ってしまおう。
今、この人を浚ってしまおう。
うずまきナルトが動く前に。

「僕は、あなたが・・・」

ガタンッ!

その時、突如響いた、机が床を動く音。
そして、ソファの陰から伸びた足と、起き上がる金色の髪。
立ち上がる影。
こちらを見据える蒼い瞳。

うずまき・・・ナルトだ。
こんな近くで見るのは初めてだ。

「・・・ナルト?
あんた、こんな所で何してるのよ!?」
サクラ先輩が、僕から、すっと離れる。

「サクラちゃんに会いに来たんだってばよ」
「なら、そんな所に隠れてないでよ!」
並び立つ二人。

さっき、チビでガキで落ち着きがなかったって言っていたけれど
やっぱり嘘なんじゃないだろうか?
うずまきナルトの肩の高さにサクラ先輩の目線。
向かい合う二人は、一枚の絵のようで、
僕は慌てて視線を外した。

「待ってたら、つい眠っちゃったんだってばよ」
「嘘。気配消してたじゃない!」
「それは・・・なんつーか、
回復の為に仙人モードで自然エネルギー溜めてたら、
つい寝ちまって、サクラちゃんが入ってきた時に気付いたんだけど、
・・・オレのこと話してるから・・・だから・・・つい」
言い淀みながらの言葉。
でもその顔つきは、いたずらな色を含んでいる。

「ほら!やっぱり聞き耳立ててたんじゃない!」
サクラ先輩は、うずまきナルトが蹴った机を元に戻す。
「なぁなぁ、さっき、オレのこと、かっこいいって言ったよね?」
ニコニコしながら問いかけるうずまきナルトを、サクラ先輩は一蹴する。
「言ってない!
盗み聞きなんかする男らしくないヤツのことを
だーれが、かっこいいなんて言うもんですか!!」

フンと顔を背けた直後、悲鳴のような声を出す。
「あっ!ちょっと!!
あんた、私が大事に取っておいたぜんざい食べたわね!!」
「あはは・・・ごめん。腹へっちまって」
「あんたねー」

「任務帰りにそのまま急いで来たんだってばよ」
「うわ、本当だ、汚い!!
あー!ソファがドロドロじゃない!!このバカナルト!」
ゴインと音を立てて、サクラ先輩の拳が、うずまきナルトの頭に命中する。
普段とは全く違う、生き生きとしたサクラ先輩の顔。

一生懸命ソファの泥を落とすサクラ先輩を見下ろしながら
アハハと苦笑いをする人。
里の英雄。
でも、何だろう、この気配。
重い。暗い。
・・・これが、稀代の英雄の存在感というものだろうか?

じっと彼を見つめる僕の視線に気付いたか、
うずまきナルトが僕を振り返る。
その鋭い目にドキッとする。

「ところで、こいつ、誰?」
僕をねめつけるような、鋭い視線。

「私の後輩よ。医療忍術の才能があるの。
すっごく頼りになるのよ。・・・誰かさんと違って」
「・・・ふーん」
多分に嫌味を含めたらしい、サクラ先輩の口調。
うずまきナルトの口が面白くなさそうに捻じ曲がる。
その目が無遠慮に、ジロジロと僕を眺め回す。

なんか・・・
いつもニコニコしていて感じがいい、という噂や
遠目で見た時の明るい彼の印象と全く違う。
ふてぶてしいまでに堂々とした態度。

「ちょっとあんた!何ガンつけてんのよっ!」
サクラ先輩の指が、うずまきナルトの頬にかかり
思いっきりつね上げる。
「あたたたたたっ!サクラちゃんごめん!カンベン!!」
フン!と鼻息荒く指を離すサクラ先輩。

「それで、何の用よ?」
鋭く睨むサクラ先輩に、うずまきナルトは口を引き結んだ。
「言わない」
「はぁ?」

うずまきナルトはボクを鋭い目で睨みつける。
「言わない。こいつが出て行くまで言わない!」
「あんたは・・・何を子供みたいに・・・」

「出て行けよ」
それは、僕に対して紡がれた言葉。
僕に対する明らかな敵意。
それで、僕は理解する。
この人は、サクラ先輩を・・・

その直後、
「出て行けはあんたよっ!」
サクラ先輩の怒声が響き渡り、
うずまきナルトは首根っこを持たれ、ドアの外にポイッと放り出された。

「うわー!サクラちゃん!!待って!ごめん!!」
ドアをドンドンと叩く音が響くけれど、
サクラ先輩は完全無視でパンパンと手を払うと
にっこりと微笑んで振り返った。
「さて、じゃあ書類整理しましょうか」
いつもの穏やかで理知的な先輩の顔だった。

 

「よし、これで大体書類は揃ったわね」
サクラ先輩が、書類の束を抱えて机の上に置いた。

結局、あの後は大した話は出来なかった。
ドンドンとドアを叩いていた音は少しして止んだけれど、
サクラ先輩は気にする風もなく、
医療忍術の話とか、綱手様の賭けの話なんかを聞かせてくれて
書類整理は順調に進んだのだった。

「じゃあ・・・悪いんだけれど、
これを綱手様の所に持って行ってくれる?」
「あ、はい」
書類をその手に受け取ってから訊ねる。
「サクラ先輩は?」
「私は・・・ちょっと用が残っていて・・・」
机の上の置物をなぞる右手の指。
左手の細い指が、その桃色の髪の毛を耳にかける。

「わかりました。じゃあ、失礼します」
ガチャッとドアを開けた瞬間、
パッと目に入った金色のもの。

うずまきナルトが、部屋の前の壁に背中をくっつけて座っていた。
「え・・・?」

薄暗い廊下で、蒼い目が光る。
任務帰りに直接こちらに来て、それなのに追い出されて
でも帰らずに、ずっとここで待っていたということ?

「お前・・・」
うずまきナルトが低く呟く。
「お前、名前は?」
蒼い瞳が下から真っ直ぐ僕を見上げる。

僕が答えようと口を開いた途端、
部屋の中から声がした。
「入っていいわよ」

「え?」
思わず振り返った僕の後ろに、サクラ先輩が立っていた。
「ほら・・・ナルト」
ドアが大きく開く。
「そんな所でずっと待たれてたら気になるじゃない」
その頬が少し赤い。

ああ・・・と思う。
やっぱり好きなんじゃないか。

うずまきナルトが嬉しそうに立ち上がる。
もう、僕のことなど眼中にない。
犬みたいだと思った。
僕の横を通り過ぎていく大きなオレンジの影。

身長は、僕とそんなに変わらないはずなのに
とても大きく見える。
それは、その存在感のせい?

パタンとドアが閉じる。
僕は火影室へと足を踏み出した。
そこにはとても・・・僕の入る隙間などなかった。

 

後日、病院へと急いでいた僕の目の前に
いきなり彼は現れた。

思わず警戒して身構えてしまった僕に
うずまきナルトは顔の前でパンと手を合わせると
「なぁなぁ、この前は悪かったってばよ」
ニシシとバツの悪そうな笑顔を見せる。

その豹変ぶりに、眉を寄せ、ただ固まる僕。

「お!ナルトじゃないか」
その時、出て来た店の主人が彼に声をかけた。

「随分ご機嫌だな。なんかいいことでもあったのかい?」
「へへっ!わかる?
聞いてくれる?聞いてくれる?
オレ・・・火影になるんだ!」

火影に・・・?

ああ、それで、この前、サクラ先輩の所に来たのか。
同じチームのメンバーとして報告したかったんだろう。
きっと一番に。

うずまきナルトのその発言に、周り中から歓声が上がる。
この人は、多分どこにいても注目を浴びる人。
物語の主人公になる人。

嬉しそうに頭をかきながら、うずまきナルトは口を開いた。

「それに・・・あと、もう一個、すげーいいことあったんだー」
「へぇ、火影になるのと同じくらいいいことか?」
「へへへ・・・」
うずまきナルトは、指を鼻にあてて、照れくさそうに笑った。

「・・・となると、”女”だな」
隣の店の主人が出て来て、腕を組む。
「えー?・・・わかる?わかる?」
くねくねと、怪しい動き。
引きつる僕の前で、店の主人が、ポンと手を打った。
「おお!やっとか」
「いやー。照れるってばよ!」

「え?やっと?」
思わず、話に入り込んだ僕。
主人はうずまきナルトの頭に手をポンと置いて

「こいつはもう、ガキの頃からずっと片思いしてたからな」
「片思い・・・」
「永き春にピリオドか!そりゃメデタイな!」
どーも、どーも!とペコペコ頭を下げる、うずまきナルト。

ああ・・・と思う。
彼女は、サクラ先輩は彼と・・・。

もう、これ以上聞く必要もない。
そう、踵を返そうとしたその瞬間、

「というわけで!」
いきなり、うずまきナルトの手が僕の肩に乗り
ぐいっと引っ張られる。

「・・・あの?」
「サクラちゃんの部下は、オレの部下でもあるよな?」
「はあ?」
なんだ、その無理矢理な持っていきかたは。

「お前に、サクラちゃんに悪い虫がつかないよう見張る任務をやる!」
「・・・はあ?」
「お前を男と見込んで頼む!」
男と見込んだのなら、余計にまずいんじゃないのか?と思う。
大体、彼はあの時の僕の言葉を聞いていたはずだ。

そして、その邪魔をする為に、わざと机を蹴ったのだ。
それなのに・・・

彼はニヤッと笑うと、こっそり耳打ちしてきた。
「じゃないと、お前の気持ち、
サクラちゃんと病院の皆にバラしてやるってばよ」
「え?」
「そうなったら気まずいだろうなー、
職場で後ろ指さされるだろうなー、病院に居づらいかもなー」

ニヤニヤと笑うその顔。まるで子供だ、と思う。
「・・・一体どういう神経してるんですか?
普通、ライバルにそんなこと頼まないでしょう?」
ムッとして、生意気だと怒られても仕方ないような口をきいたのだが
でも、うずまきナルトはそれは意に介さず、ニヤッと笑って答えた。

「ライバルだなんて思わないね」
「どうしてですか?」
「サクラちゃんは面食いだ」
アッサリと言い切る、うずまきナルト。

・・・それなら、悪いけど
僕はあなたにそれ程劣るわけではないと思う。
口にはしないけれど、こっそりそう考える。

うずまきナルトは続けた。
「お前は、あいつに似てるから、大丈夫だってばよ」
「え?誰にですか?」
「へっ、言うかよ」
イタズラな顔で笑う、うずまきナルト。

噂と違う、
でも、確かに魅力的な人。

ああ、やっぱり僕はこの人が嫌いだ。
大嫌いだ。
何でも持っている、何でも手に入れる、このエリート忍者。

でも・・・
確かに惹かれる。

きっと、面と向かって逆らうことが出来るのは
これが最初で最後だろう、と思いながら
「見張りなんか絶対しませんよ」
そう答えた僕がいた。

 

ー 終 ー

 

ひとこと

マニ様に捧げます~
あなたの口から・・・というタイトルは、サクラちゃんが語る、ナルト&サスケの話、という感じで。
『少し大人なナルサク前提のサク→ナル+サス』&『サスケ君大絶賛&ナルト言いたい放題』→でも結局ナルトが好きなんジャン&『友達以上恋人未満設定』との設定に、私も萌えさせていただきました。サクラちゃんが語る二人~(はぁと)
最初はもう少し女の子~な感じの話にするはずが、サクラ先輩に憧れる、ナルトライバル視点にしたことで、ナルト、悪ガキっぷり全開になりました。ナルトは、サスケ以外には容赦なしになりそうかなぁ、と。(2012.01.03)

104 人の方が「読んだよ!」してくれました。