渚カエですが、一応ネタバレ……なような?
アニメ・コミックス派の人は読まないでねん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉妹そろって好きになった人
「殺し屋」

笑えない。
まったくもって笑えないわ。

だって報われないもの。

私が普通に喋るとホッとした顔をする。
その顔にまた胸がキュッと締め付けられる。

「茅野」
女の子みたいな、でもちゃんと男の子の声で私を呼ぶ。

『茅野カエデ』

演技だったのになぁ。
すっかり私の名前になっちゃったよ。

子役には恋愛の演技は必要ない。

でも、子役にも憧れのお兄さんはいたりして
ヒロインの恋路を邪魔したりして
(邪魔がかえって恋のキューピッドになったりするんだけど)
仄かな初恋を匂わせたりもしたりして

それが純粋であればある程
清純であればある程、視聴者は喜ぶんだ。

 

ー 「殺し屋」を好きになるのは…… ー

 

放課後、日直だった渚と私は
社会の資料を片付けに準備室にいた。

「ね、渚。この資料はここで良かったかな」
「うん。大丈夫だと思うよ」

二人揃ってチビだから、
大きな資料を抱えて歩いていると
イケメグが助けてくれたりする。

でも今日は二人きり。

やだ。
二人きりだって意識すると
胸の音が聞こえそうで
息すら出来なくなっちゃう。

ふと、渚が身じろいだ。

「あかり」

本当の名を呼ばれ
ビクッと肩が震えて本を取り落としてしまう。

恐る恐る振り返ると渚は天井を見上げてた。
「明かりが一カ所切れてるね」
確かに一本の蛍光灯がチカチカと点滅してる。

「あ、あは……本当、切れかかってるね」

なんて紛らわしい。
自分の名前を恨む。

「一本だけ切れてると気になるね」
「ああ、うん、そうね」
曖昧に返事をしたけれど、渚はじっと天井を見つめたまま。

「渚、どうしたの?」
渚は、うーんと顎に手を置いて悩んでる。
「光が点滅すると影も動くし標的にしにくくなるね」
「え?」
「でも目の錯覚を使って罠を組んだら、成功率が上がるかな」

私はバレないようにこっそりと溜息をついた。

勉強熱心だなぁ。
頭の中、いっつも90%くらい暗殺のことになってるんだろうな。

何を見ても、何を聞いても
渚の脳は全てを暗殺に結びつける。

ちょっと前までの私もそうだった。
感情を殺して99%くらいまで暗殺のことで自分を染め上げようとしてた。

じっと殺せんせーを見て
弱点になりそうなものを見つけて
殺せんせーの弱点を見つけてくれそうな渚に近付いた。

殺せんせーは言ってた。
「『殺せば人は死ぬ』それだけが真実だった」って。
だから「死神」は誰よりも強かったんだ。

じゃあ、渚はどうしてそんなに強いの?

渚にとっての真実ってなぁに?

私は蛍光灯を目に呟いた。

「ね、渚。あかりって漢字が二つあるの、知ってる?」
「え?」
「『明るい』のあかり。『灯す』のあかり」
「あ、うん」
「じゃあ、漢字の使い分けはわかる?」
「『明るい』のあかりは太陽とか月とか大きな光源で、『灯す』のあかりはロウソクとか街灯とか人工的な光源……かな?」
戸惑った顔ながら、真面目に答えてくれる渚。

私は頷くと髪をほどいて歩き出した。
「さて、私の名前のあかりはどっちの漢字でしょう?」

明るい色の髪が風に乗る。
その自分を渚が見ているのを感じる。

ね、渚。
好きだよ。

私を見て

優しい顔で笑って
私を捕えて
離さないで

人格ごと
すべて支配して。

「あかりはね、暗闇が好きなの」

渚は多分、目をパチパチさせてる。
私が何を言い出すのかと思ってるんだ。

「だって、暗闇はあかりをより綺麗に見せてくれるでしょ」

振り返る。
長い髪が肩からすべり落ちる。

同級生の演技にほんの少しだけ毒を入れて
私は渚の前に立つ。

にこっと笑って私は手を差し出した。

「ほら。渚、行こ?」

自然に握り返される手。

友達?
ううん。友達じゃないよ。
そういう風に握る。

でも、きっと端から見たら
私が渚を引っ張っていってるだけに見えるんだ。

その時、
渚の空いた方の手が私の髪を軽く引っ張った。

「多分、灯すの『あかり』だと思う」

それが問いへの答えだと気付くのは少ししてから。

「圧倒的な光じゃなくて、優しい光だから」
渚が私を見てる。

「ふぅん」
私は首を傾げた。

人の手によって灯されたあかりだと
渚はそう言うんだ。

私は軽く口の端を上げて
それから、その口を尖らせる。
「ブー、残念でした」
上目遣いで睨む。

「え?」
「私の『あかり』はひらがなだよ。漢字じゃないもん」
「えー?」
渚の目が点になってる。

ね、渚。
いつか名前を呼んで。

今はもう誰も呼んでくれない
私の本当の名前。

 

ー 終 ー

 

 

ひとこと

いや、渚カエが好きなんですよ。
ただそれだけ。

今、カエデっちの方がすっかり恋愛モードですが
是非、渚くんにもドキドキしていただきたい。

そして、またカエデっちにも
華やかに活躍(暗殺)してもらいたい。

それだけです。

 

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