背中が好き
ろくろの
背中が

 

ー 憧れのおかゆへの道(前編) ー

 

「また……寝てる」

どうして床で寝るのだろう?
固いのに

それとも……
固いから?

中間テストが終わって
一夜漬けで試験勉強をしていたろくろは
リビングで惰眠をむさぼっていた。

その後ろのソファーは
おはぎを食す
私の定位置。

『陰陽師は、勉強なんてしなくてもいいんだ!』

そう叫んで
椥辻さんに叱られて
泣く泣く机に向かっていた。

でも夜中に部屋を覗いたら
やっぱり固い床で眠ってた。

コツ……

割り箸の先が紙の箱の底に当たる。
買ってきたおはぎが底をついたのだ。

「不覚……」

このお店のおはぎは、あんこの仄甘さと
口の中で程よくくずれる握り具合が絶品なのに
きちんと味わう前に完食してしまった。

「君の、せい……」

こちらに背を向けて眠る同居人をギリと睨みつける。

ぴょん、と跳ねる髪の毛。
大口開けて眠るだらしのない顔。
めくれたTシャツからのぞくお腹。

本当に君は
陰陽師として以外はダメダメだ。

でも
陰陽師としては……

『紅緒! 来い!』

迷いなく差し出される手のひらが
私の着地点。
だから……

コツコツ

箱の底にこびりついたあんこを
割り箸の先で懸命に集める。

せめて
この最後の小豆だけでも
堪能しなければ
修行を置いて買いに行った
甲斐が、ない

――紅緒

コトリと揺らされる胸の奥。

呼ばれた……?

そう思う間もなく
気付けば自分も固い床に転がって
ろくろの手に触れていた。

ぎゅうっと握られる指。

痛くはない。

その強さは不快ではなく
どちらかと言えば
しっくりとくる
安心を感じる強さ。

横たわったまま
強く握られる自分の手を見つめる。

普段はグローブをしてるから
体温を感じるほどでもなくて

でも
今は直接触れている……から
ろくろの熱が
直に伝わってくる

大きい

それに自分のよりも太くて
しっかりとした指。

どうしよう

握られている自分の手を
目の前で見つめるのは
思ったより
かなり
恥ずかしい
そして心臓に悪い

こんな所
婆やに見つかったら
どんな顔をしていいのか……

「……くな」

突如、微かに動いた唇に
ドキリとして身体を縮める。

恐る恐るろくろの顔を見たら
とても厳しい顔をしていた。

戦っている時のような

「まさか、ケガレ……?」

身を起こして
確認しようとした瞬間

「行くな、紅緒」

ろくろの口から飛び出した自分の名に
心臓がどくんと大きく飛びはねた。

「ろく……ろ?」

呼びかけるけれど
反応はない。

「――夢、を……見ているの?」

その夢でも
自分はろくろの側にいるのだ。

胸にじわじわと広がる
くすぐったいような
恥ずかしいような
でも、すごく温かい……

しっかりと握られた手を
きゅっと握り返す

「私は……
ここに、いる……。
行かない……から
どこにも……」

『罪も穢れも
全部まとめて祓ってやるっ……!』

君のその言葉は
私自身の言葉でもあるから

「ん……」

その時、ろくろが
身体を大きく動かして
向こうをむいた。

解放されるかと思った手は
握られたまま同時に引っ張られて
横を向くろくろの腰へと乗る。

――えええっ

頭が沸騰する。

だって
ジーンズの上に着ているTシャツは
寝相の悪さゆえにずり上がっていて
だから
握られた手は直接
ろくろのおなかに……

手のひらどころではない
おなかの柔らかい肌が
直接触れているのだ

おまけに、ろくろの背中が
目の前に……

「んー? ……ふあぁぁ」

ろくろが大きなあくびをする。

目が覚めたのだ。

飛んで逃げようと思ったけれど
でも、手が……
手が……

咄嗟に目を瞑った。

 

後半へつづく

 

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